2026.01.15
なぜ、安定志向のZ世代は「AIでなくなる仕事」を避けるのか? 若者が今、あえて「現場」へ回帰する理由
「AIに仕事を奪われる」
ここ数年、ビジネスシーンで繰り返し語られてきたテーマですが、この言葉が今、企業の採用市場においてこれまでとは違う意味を持ち始めています。
かつて「安定」の象徴だった事務職や一般管理部門。これらがAIによる代替の筆頭候補となったことで、デジタルネイティブであるZ世代の職業選択に静かな、しかし確実な地殻変動が起きています。
なぜ、安定志向と言われる彼らが、あえて「現場」の仕事を選び始めているのか。その背景にある心理と、企業が採用難を勝ち抜くための新たな「訴求ポイント」について解説します。
◆市場背景:Z世代が避ける「AIでなくなる仕事」の正体
まず、本コラムにおける「AIでなくなる仕事」について定義します。それは、定型的な事務処理やデータ入力、簡易な調整業務など、これまで新卒・中途問わず人気が高かった「オフィスワーク全般」を指します。
米国ではすでに、ホワイトカラー業務のAI代替が急速に進んでいます。一方、日本では厳しい解雇規制があるため、AIが入ったからといって直ちに従業員が解雇されることは稀でしょう。しかし、ここにこそ日本特有のリスクが潜んでいます。
それは「社内失業」です。
雇用は守られても、仕事そのものがAIに置き換われば、やるべき業務は消失します。その結果、望まない部署への配置転換や、役割のないまま会社に居続けざるを得ない状況が生まれます。
今のZ世代は、非常に現実的かつシビアな目を持っています。「とりあえず大手に入れば安泰」「オフィスワークなら楽」というかつての神話は通用しません。彼らにとって、スキルが身につかないまま年齢を重ねることは、ブラック企業で働くこと以上に恐ろしい「キャリアのリスク」なのです。
◆競合の罠:逃げ場としての「スキマバイト」とキャリアの断絶
オフィスワークの席が狭まる一方で、若者の新たな受け皿となっているのが「スキマバイト(スポットワーク)」です。
面接なしで、好きな時間に働ける手軽さは魅力的であり、一時的な収入源として急速に普及しています。採用担当者にとっても、競合は同業他社だけでなく、この「組織に属さない働き方」になりつつあるのが現状です。
しかし、ここには大きな落とし穴があります。それは「スキルの蓄積がない」ことです。
単純作業の切り売りを何年続けても、職務経歴書に書ける強みは生まれません。AIにもなれず、プロフェッショナルにもなれないまま30代、40代を迎える――。この「キャリアの砂漠化」に対する不安は、潜在的に多くの若者が抱えています。
◆回帰の理由:なぜ今、あえて「現場」なのか
ここで再評価されはじめているのが、建設、物流、インフラ、製造といった「現場技術職(エッセンシャルワーク)」です。かつては「きつい・汚い・危険」といわれた領域ですが、Z世代の目には全く違う価値として映り始めています。
1. AIに代替できない: 複雑な物理作業や、現場ごとの臨機応変な対応は、当面AIには模倣できません。
2. スキルという資産: 「手に職」をつければ、会社に依存せずとも生きていける確実な強みになります。
つまり、彼らが現場職を選ぶ理由は「体を動かしたいから」だけではなく、「AIに奪われないスキルを、最短ルートで身につけたい」という極めて合理的な(タイパの良い)判断によるものなのです。
「現場」こそが、AI時代の新しい「安定=セーフティネット」になりつつあります。
◆解決策:「教育環境」を可視化しないと応募は来ない
では、現場職を募集すれば自然と若者が集まるかと言えば、そうではありません。彼らは「育たない環境」を徹底的に避けるからです。
「未経験歓迎」「研修制度あり」
求人票にこの数文字を載せるだけで満足していませんか?
ブラック企業を警戒するZ世代は、その言葉だけでは信用しません。「本当に教えてくれるのか?」「怖い職人に怒鳴られるのではないか?」という不安を取り除く必要があります。
ここで重要になるのが、「教育環境の可視化(採用マーケティング)」です。
・動画で「人」を見せる:
研修を担当する先輩社員や、実際の指導風景を動画で公開してください。「この人が教えてくれるなら安心できそうだ」という心理的な安全性が、応募のハードルを劇的に下げます。
・記事で「変化」を読ませる:
「未経験で入社したAさんが、入社3ヶ月で何ができるようになったか」という成長ストーリーをインタビュー記事にしましょう。読者はそこに自分を重ね合わせ、「自分もプロになれる」という確信を持ちます。
たとえば、新卒を採用して教育してから企業へ配属する「新卒派遣(常用型派遣)」というモデルが近年支持されているのも、そこに「教育」という明確なシステムの裏付けがあるからです。
一般企業の採用においても、これと同じ戦略が必要です。「即戦力を探す」のではなく、「ポテンシャル層をプロに育てる環境があること」を、動画やリッチコンテンツで証明する。これが、今の時代の勝ち筋です。
◆結論:「育てて見せる」企業が勝つ
少子化により、完成された即戦力の採用難易度は年々高まっています。そのレッドオーシャンで消耗するよりも、安定志向のZ世代が求めている「教育」を提供し、彼らを戦力化する方が、長期的には遥かに合理的です。
「当社には、君をAIに負けない人材に育てる環境がある」
「その証拠がこれだ」
そう胸を張って言えるコンテンツを用意できた企業だけが、これからの採用市場を勝ち抜いていけるでしょう。
貴社の採用サイトには、若者の背中を押す「教育の証拠」が掲載されていますでしょうか。ぜひ一度、求職者の目線で見直してみてください。