2022.07.05
採用トレンドに関するキーワード解説 「全国転勤廃止」
世界中を見ても類を見ない、日本独特の企業文化に「全国転勤」があります。全国に事業拠点を展開する大手企業などが従業員をそれぞれの拠点へ異動・配置転換を行うことで組織の活性化や業績拡大、そして従業員にとっても転勤のたびに昇格などの成長の機会が得られるなどのメリットを享受してきました。かつての終身雇用制が、この全国転勤を可能としてきた背景の一つとも考えられています。
1990年初頭のバブル崩壊によって終身雇用制が崩壊してからも、しばらくの間はこの全国転勤がなくなる様子は見られませんでした。しかし、ライフスタイルの変化を理由に転勤を拒否する従業員が増加。人材の流動化が進んだことによって離職するケースも多くなり、徐々に企業側も転勤について見直しをはかるようになり、ついには全国転勤廃止を決定する企業も出始めています。
そこで今回、ニュースなどで目にする機会も多くなった「全国転勤制度」に関する記事を紹介し、その内容について解説します。
■トピックス
○NTT、「転勤・単身赴任廃止検討」の衝撃、日本企業の働き方はどうなる?
https://diamond.jp/articles/-/283532
2021年9月にNTTが新たな経営スタイルの変革策として数々のプランを発表した中で、多くの注目を集め驚かせたのが単身赴任を含む転勤を廃止していくという方針でした。新型コロナウィルスの感染拡大によって普及拡大されたリモートワークを、事態収束後も継続的に推進することで働く場所を限定せず、従業員自らがどこで働くかを選択できる制度を導入していくものです。NTTはグループ全体で32万人もの従業員を抱える一大企業グループですが、そのNTTがリモートワークを前提に、日本の伝統的な経営手法である全国転勤や単身赴任を廃止することでどのような影響が出たのかを、経営コンサルタントが紹介している記事となります。
○「望まない転勤」やめたら、新卒応募10倍に。「会社が回らなくなる」その疑念をどう払拭したのか聞いた
https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_61ee376ae4b02395794705e7
損害保険大手のAIG損害保険が2019年に全国転勤の廃止を発表し、2年半の移行期間を設けて2021年秋をもって本格的に廃止しました。これは全国転勤を完全に廃止するではなく、従業員にとって「望まない転勤」を廃止するものです。それまでは全国に約100店舗の支店ネットワークがあり、定期的な人事異動において全国転勤も行ってきました。その同社が約4000名の従業員を対象に転勤OKな社員を「モバイル社員」、希望エリアで働く社員を「ノンモバイル社員」に分類。先にノンモバイル社員を希望する拠点への配属を行った後、調整がつかなかったところへモバイル社員を配置していくという取り組みを実行したのです。導入をはかる際は従業員のモチベーションに対する不安や現場からの様々な懸念などがあり、調整するのも一苦労の様子だったそうです。しかし、この取り組みによって新卒募集で学生からのエントリーが対前年比10%アップと、何かしらの影響も表れ始めています。
このAIG損害保険による実質的な全国転勤の廃止によって、業界を問わずに数々の大手企業が全国転勤の廃止や見直しを行う動きを見せ始めました。先に紹介したNTTのケースもその一つで、おそらく今後もこの流れが進んでいくことが見込まれています。
この背景にはNTTのケースにも見られた「リモートワークの普及拡大」が大きく影響されており、特にコロナ禍で多くの企業がリモートワークを採用し、出社しなくても業務遂行が可能となる環境が整備されたことで全国展開廃止に拍車がかかったと考えられます。
○「望まない転勤」をやめてほしい社員 vs 不都合が生じる企業 2パターンの解決策
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2204/12/news006.html
全国転勤廃止は制度として一律に廃止するだけではなく、先陣を切ったAIG損害保険に代表されるように、企業の一方的な辞令による転勤の強制を廃止することも含まれます。従業員が望まない転勤を廃止するだけではなく、転勤OKという社員を設けることによってそれぞれの希望に応じながら、それぞれの拠点での人員調整を可能とする取り組みです。業種や職種によっては従業員のモチベーションを維持しながら組織の活性化に大きな効果が期待できるところもあれば、そのような結果に結びつきにくいケースもあるようです。全国転勤を廃止することにより、却って不都合が生じることもあるので、導入を検討する場合は自分たちのビジネスモデルや仕事内容を考慮し、状況によっては地域限定社員枠を設けるなど、様々な可能性から状況に適した制度を検討していくことが望ましいでしょう。
■まとめ
全国転勤廃止は「転勤はしたくない」という従業員の希望に応えるだけではなく、企業としても転勤を強要することで有能な人材の流出を防ぐというメリットがあります。しかし、廃止するにあたっては転勤によって実現してきた業務スキルやマネジメントノウハウの習得機会、そしてキャリアアップに関する人事考課の見直し、組織活性化に向けた新たな施策の検討なども必要となってくるでしょう。
人材採用においても『転勤はありません』のコメント表記が応募効果に影響を与えるなど、マッチングにおける選択項目の一つに挙げている求人サイトも増えています。だからといって、全国転勤廃止のリスクを無視するわけにはいきません。まずは自分たちのビジネスモデルやスタイル、就業環境など様々な条件に合わせた体制の構築や条件の緩和などを検討していく必要があるでしょう。現場に応じて何を変えていくか、何を導入するかを考え、実践していくことで応募数の拡大を目指していきましょう。
※採用市況感レポートは、統計数値をもとに分析した内容を月1回お届けします。